2005年2月6日日曜日

應召女郎 (The Call Girls)

〔えいが〕

1973年、香港(榮華)。龍剛監督。恬妮、金霏、丁佩、陳曼玲、李琳琳主演。

香港のコールガール(娼婦)たちの生態を描いた映画。
張曼玉(マギー・チャン)主演の『コールガール(應召女郎1988)』に始まる一連のコールガール物(『應召女郎1988之現代應召女郎』『92應召女郎』『新應召女郎』)のルーツとなった作品です。

きわめて大雑把なストーリーは、下記の通り。

1、麗莎の場合
麗莎(恬妮〔ティエン・ニー〕)は表向きはモデルですが、裏では金持ち相手に買春を行う高級娼婦でした。
ある日、何も知らない恋人の菲立(鄧光榮〔アラン・タン〕)は、家族に麗莎を紹介するため、邸内でのパーティーに彼女を招きます。
しかし、紹介された親戚の男たちは皆麗莎の客で、菲立の父である王佐治(唐菁〔タン・チン〕)も例外ではありませんでした。
麗莎と結婚したいと言う菲立に王佐治は彼女が娼婦であることを暴露、結婚を諦めさせようとします。
麗莎の素性を知った菲立は彼女に別れを告げ、麗莎は彼の許を去るのでした。
2、秀瓊の場合
秀瓊(金霏〔チン・フェイ〕)は、重い心臓病で定職に就くことのできない夫・俊林(龍剛〔ロン・コン〕)と4人の子供たちとの生活を支えるため、夫には内緒で娼婦として働いていました。
が、客から移された性病の治療を受けていた病院の看護婦が俊林にそのことを告げたため、秀瓊の職業に疑いを抱いた俊林は秀瓊が働く買春宿をつきとめてしまいます。
失意の俊林は子供を道連れに服毒自殺を遂げ、それを知った秀瓊も夫と子供の後を追って自らの命を絶つのでした。
3、茜娜の場合
茜娜(丁佩〔ティン・ペイ〕)は、買春で稼いだ金を恋人との結婚資金としてせっせと貯金していましたが、恋人がその金を盗んで失踪してしまいます。
そんな彼女を慰めたのが隣室に住む志琛(秦祥林〔チャールズ・チン〕)。
ひょんなことから結ばれた2人でしたが、茜娜が自室で買春をしていることを知った志琛は、自暴自棄になり彼女を諦めようとします。
しかし、何としても諦めきれない志琛は、茜娜の所にいた客を追い返して彼女に結婚を申し込むのでした。
4、少芳の場合
少芳(李琳琳〔リー・リンリン〕)は、不良グループのリーダーの恋人でしたが、彼が敵対するグループのリーダーである狄郎(伊雷〔イー・レイ(ライ)〕)との争いに敗れて命を落としたため、狄郎に拉致されて強姦されたあげく、売春組織の元締めに売り飛ばされてしまいます。
が、次第に少芳を愛するようになっていた狄郎は彼女を連れて元締めの所から脱走を図るものの、追手に捕まるのでした。
5、惠英の場合
惠英(陳曼玲〔チェン・マンリン〕)は、馴染み客(というよりは、愛人関係に近い感じがしました)・王佐治(唐菁〔タン・チン〕)との間にできた子供をトイレの中で出産して逃亡、それがもとで警察に追われる身となります。
逃走中、街頭で客を引くところまで身を落とした惠英は、唯一の身寄りである祖母を訪ねて警察に見つかり、目が不自由な祖母は彼女を探して誤って転倒、そのときの怪我がもとで命を落としてしまいます。
惠英は王佐治を呼び出し、行為の最中に彼を殺害するのでした。

以上、5人の娼婦たちの人生模様が同時進行で描かれていきます。

それぞれのエピソードの内、特に見応えがあったのが金霏と陳曼玲の件。
香港版ボンドガールとして活躍したセクシー女優の金霏(『香港ノクターン』でお父さんを騙す悪い女をやっていた女優さんです)が、ここでは哀感のある実にいい演技を見せていました。
彼女の代表作と言ってよい1本でしょう。
でも、旦那さん、心臓が弱い割には4人も子供作って、やることはやってるのね。

陳曼玲は、元國泰(キャセイ)の女優さん。『レッツゴー!若大将』でもおなじみの方です。
「金持ちの愛人→買春宿→路上勤務」という転落の系譜を辿った後、阿部定も真っ青の衝撃シーンが締めくくりに登場します。

恬妮のエピソードの「みんな私のお客さんだった」という「世界は一家人類は兄弟」を地で行く展開は、張曼玉のそれ(『コールガール』)でも踏襲されていたパターン。
恬妮が娼婦だと知らないうちは、「娼婦って、ある意味高尚な職業だと思うんだよ」なんてノー天気なことを抜かしていたくせに、いざ自分の恋人が娼婦だったと知るや、札束で彼女の頬を引っ叩いて別れを告げる鄧光榮って、なんだかアホ臭い男(あ、役柄の上での話です)。
その意味で言うと、強姦しといて惚れちゃう伊雷も身勝手以外の何者でもないな。

唯一、結婚を申し込まれる丁佩がハッピーと言えばハッピーエンドなのかも知れませんが、あんまりそうは見えませんでした。

さて、『飛女正傳』のところでも触れましたが、社会問題を探求するマスコミとそれに答える専門家を配して問題提起を行うという龍剛監督お得意(?)の図式が、本作でも登場します。
『飛女正傳』では感化院の院長を演じていた曾江(ケネス・ツァン)がここでは「なぜ買春はなくならないのか?」を取材するインタビュアーに扮し、専門家や市民のコメントを得る中で、買春及び娼婦の問題を浮かび上がらせようという仕掛けになっていました。
また、娼婦たちを救うために奔走する神父(喬宏〔ロイ・チャオ〕)の存在も、『飛女正傳』における院長(曾江)とキャラクターが被っています。
これを(映画を通じて社会問題を提示するための)あまりにもストレートなやり方と見るか否かは意見の分かれるところでしょうが、少なくとも、龍剛監督が当時の香港社会に対して抱いていた強い問題意識は伝わってきます。

今後も機会があれば、龍剛監督のこの他の作品(『英雄本色』←『男たちの挽歌』のルーツ、等)を観ていきたいと思いましたです、はい。

付記:路上で客を引く陳曼玲とご同業の老娼婦を演じてちらりと顔を見せていた王莱(ワン・ライ)の存在感、すごかったっす。ギトギトの厚化粧で秦祥林に「遊んでかない?」と声をかけていました。この2人、母子役やったこともあるんだっけ。

(於:香港電影資料館)

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