2006年4月5日水曜日

紅葉戀 (The love of the red-leaf)

〔えいが〕

タイトルは「紅葉」ですが、ヒロインの名前は「櫻」子です。

1968年、香港(九龍)。呉丹監督。陳寶珠、呂奇、譚炳文、王天麗主演。

香港旅行のさいに鑑賞した映画の積み残し。
先月ご紹介した『春光無限好』と同時撮影された、もう1本の日本ロケ作品。

既に記憶が曖昧になりつつあるのですが、超大雑把なストーリーは下記の通り。

自分の運転ミスから恋人・蘭心(陳寶珠)を交通事故で死なせてしまった陶樹南(呂奇)は、真珠商である父(駱恭)のすすめで兄・樹東(譚炳文)のいる日本へ傷心旅行に出かけますが、ふと立ち寄った寺院で蘭心と生き写しの娘に出会います。

その後、樹南は兄が日本支社長を務める真珠加工場でその娘と再会します。
娘の名は酒井櫻子(陳寶珠)、父が日本人、母が中国人という日中ハーフの女性で、今は父と2人暮らし。家計を支えるためにこの加工場で働いていたのでした。

櫻子に心惹かれた樹南は、彼女を自分の秘書として雇い、やがて2人は恋に落ちますが、結婚の許しを得ようと櫻子の家を訪ねた樹南たちに対し、櫻子の父・太郎(馮毅)は悪態をつきます。
その夜、酒に酔った太郎はかつて軍人だった頃に用いていた軍刀を振り回して櫻子を脅し、怯えた櫻子が外へ逃げている間にその軍刀で割腹自殺を遂げます。

身寄りのなくなった櫻子は樹南に連れられて香港へ渡るものの、樹南の父・伯基は、かつて自分の恋人を日本軍人に強奪されたという過去から日本人を憎悪しており、櫻子に対して何かと辛く当たるのでした。

困った樹南は櫻子を蘭心の母(黎雯)に預けますが、蘭心と生き写しの櫻子を見て、蘭心の母は櫻子が生き別れになった自分の娘・慧心であることを悟ります。
実は櫻子の父・酒井太郎こそ伯基から恋人を奪った張本人であり、蘭心の母は伯基の恋人だったのです。

全ての誤解も解け、中国人・慧心となった櫻子は、樹南の婚約者としてようやく認められたのでした。

ストーリーを読んで、何でもっと早くに伯基は蘭心の母親が自分の恋人だった女性だと気づかなかったのか、と思われる方もいらっしゃるはずですが、2人はそれまで再会していなかった(顔をあわせていなかった)&伯基はかつて「日初」という名前だったけれど、にっくき「日本」の「日」の字が付く名前なんてウザーイ!とばかりに「伯基」と改名しちゃった・・・・等々、諸々の要素が積み重なって、気が付かなかったそうなのです、はい。

ヒロインが日中ハーフの女性で、その女性と中国人男性の恋というパターンは裏『香港の夜』みたいですし、呂奇の家が真珠商を営んでいるという設定は『ホノルル・東京・香港』の宝田明みたいです。
ただ、この映画のヒロインは『香港の夜』のヒロインのようにいじめに屈することはなく、最終的には「日本人→中国人」への移行も遂げて、恋も成就します。
中国人の血を引くとはいえ、日本で日本人として育ってきた女性がそうあっさりと中国人社会に溶け込めるものなのか、あっしなどはいささか疑問を感ぜざるを得ないのですけれど、日中の文化的なギャップはこの映画では一切描かれていません。

櫻子の父の暴走ぶりには「ありえねー!」と思わず口走りたくなったものの、あの粗暴で人間性の欠片もない元日本軍人像は、日本軍政下の香港人が見た帝国軍人の姿そのものなのでありましょう。
ちなみに、櫻子のお父さん、切腹する前に部屋に掲げてある額を軍刀でたたっ斬るのですけれど、その額に書いてあるのが、

光の士武(武士の光)。

これにはさすがに笑いました。

そして、さらに衝撃度が高かったのが、樹南が真珠の養殖場を見学する件。
初めの内こそおとなしくのどかな海の光景を映し出していましたが、途中から、突如、あまり若くはない海女さん(たぶん本物)の生着替えシーンに移行、しなびけたオパーイてんこ盛りの展開に「こんな映画のはずでは・・・・」とうろたえていると、今度は若い海女さんが溺れてしまい、それを助けた呂奇がやにわに海女さんの服を脱がしてボイーン(死語)がご開帳。

・・・・。

ロマンチックな悲恋物語じゃなかったの?

「サービスカット」と呼ぶにはあまりにも刺激の強い展開でおました。

で。

『春光無限好』の感想を書いたおり、宿題にしていた日本人スタッフについて、軽く触れておきます。

作品のクレジットによると、本作に関わった日本人スタッフは、

撮影:竹野治夫
照明:鈴木信元(『春光~』)、松原市正(『紅葉~』)
製作助手:明丸貞雄
メイク:岡田哉子
通訳:岸關子

との由。

カメラの竹野治夫は大ベテランですが、この当時は一般映画よりもピンク映画のほうに関わっていたそうです。
ということは、あの海女さん衝撃映像もそのあたりの繋がりで実現したものかと・・・・。

通訳の岸さんは、おそらく尤敏の通訳を務めた岸さんと同一人物でしょう。

最後にもう一つ。

櫻子と樹南が日本のあちこちを旅する場面で奈良が出てくるのですが、なぜか

奈良

と書いて

しか

と読んでいました。

2006年、奈良(なら)県は奈良(しか)県として生まれ変わります(んなわけないない)。

(於:香港電影資料館)

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