2010年1月31日日曜日

どの『四谷怪談』ですか?

〔えいが〕〔ちょっとお耳に〕

丘は花ざかり(戀愛三重奏)』。
1955年7月に台湾で上映。

どうも。
トド@海老麻央と聞くと海老マヨを思い出すです。

さて。

先だって、福岡で行われた福岡アジア文化賞20周年記念の市民フォーラム、香港から許鞍華(第19回大賞受賞)、台湾から侯孝賢(第10回大賞受賞)の両監督が駆けつけて、映画の上映と対談があったようですが、報道によると(リンク切れになった時のことも考えて魚拓も取りますた)、対談の内容はお2人の監督がどんな日本映画を観ていたか、ということが中心だった模様。

ああ、聞きたかったよ、それ…。

記事中では、侯監督が子供の頃観た日本映画として『三日月童子』や『四谷怪談』等のタイトルが挙げられていますが、『四谷怪談』といってもいろいろありますし、「監督が観たのは、どの『四谷怪談』かなあ?」などど思いつつ、調べてみた結果を以下にまとめてみますた(注1)。

・『三日月童子』(1954年、東映京都)

東千代之介主演の時代劇。
『三日月童子 第一篇 剣雲槍ぶすま』、『三日月童子 第二篇 天馬空を征く』、『三日月童子 完結篇 万里の魔境』の内、第一篇と完結篇が台湾で上映されています。
上映データは下記の通り(タイトルは台湾でのもの)。

1956年9月 『三日月童子』 (第一篇)
1956年10月『萬里鏡』(完結篇)

・『丹下左膳』(1958年、東映京都)

丹下左膳といっても、侯監督が観たのは大友柳太朗のそれですね、おそらく。
1958年10月に台湾で上映されています。





・『宮本武蔵』(1954年、東宝)

『宮本武蔵』もいろいろありますけれど、これは稲垣浩監督版。
1956年2月に台湾で上映されています。

・『モスラ』(1961年、東宝)

日本での公開は1961年7月30日ですが、それから約5ヶ月後の1961年12月20日に『魔斯拉』のタイトルで台湾でも上映されています。

・『四谷怪談』(1959年、大映京都)

通常、『四谷怪談』の映画化作品というと、わたくしなんぞはすぐに中川信夫監督の『東海道四谷怪談』を思い出すのですが、なぜかこの映画は台湾では劇場公開されずじまいでして、台湾で上映されたのは1959年の大映版だったのでありました(1959年9月)。

・『君の名は』(1953年、松竹)

1955年10月に台湾で上映(中文タイトル:『請問芳名』)。
この映画は台湾語映画として、1964年に『請問芳名』(『君の名は』)、『馬蘭之戀』(『君の名は 第二部』)のタイトルで勝手にリメイクされています。

・『三百六十五夜』

『三百六十五夜』には新東宝版(1948年)と東映版(1962年)がありますが、そのどちらも台湾で上映されています。

1955年1月 『三百六十五夜』(新東宝版。「総集編」)
1962年9月 『三百六十五夜』(東映版)

となると、さて、侯監督が観たのはどちらの『三百六十五夜』なのでしょう?
不肖せんきち、新東宝版しか観たことがございません。

・小津安二郎監督のこと

今でこそ香港や台湾でもその名を轟かせている小津監督ですが、戦後の台湾(1972年の日台断交迄)で劇場公開された作品は、実は『晩春(中文タイトル:『處女心』)』のみで、1963年12月12日に亡くなったさいにも17日になって訃報(「日本電影名導演 小津安二郎病逝」)、19日に追悼記事(黄仁氏「日本偉大的電影藝術家 最近逝世的小津安二郎」。いずれも『聯合報』)が掲載されますが、どちら小津監督の生涯と事跡を紹介する内容でした。

ちなみに、成瀬巳喜男監督や溝口健二監督も同様の有様で、独り黒澤明監督の作品だけがそれなりに上映されていたようです(注2)。
以下、台湾上映黒澤作品テキトーリスト(カッコ内が原題)。

1951年6月 『野良犬』(野良犬)
1953年3月 『羅生門』(羅生門)
1959年4月 『戰國英豪』(隠し砦の三悪人)
1960年6月 『七武士』(七人の侍)
1962年3月 『大鏢客』(用心棒)
1963年3月 『天國與地獄』(天国と地獄)
1967年9月 『紅鬍子』(赤ひげ)

・宝田明のこと

宝田さんが香港で人気があったというのは事実ですけれど、台湾でも大人気だったのですよ。
1964年9月、『最長的一夜』撮影のため初めて台湾を訪れた際には、彼の姿見たさに2万人以上のファンが撮影現場に押し寄せたそうです(1964年9月7日付『聯合報』による)。


ま、だいたいにおいて、当時の台湾で上映された日本映画は娯楽作品中心だったので、台湾における日本映画を考える場合には、その辺りの事情をきちんと勘案する必要があるかと思いますです、はい。

てなわけで、撤収!

(注1)上映データは、黄仁氏『日本映画在臺灣』(2008年、秀威資訊)巻末の「1950~1972年臺灣上映之日本電影片目」及び架蔵の『聯合報』コピーを参照しました。

(注2)成瀬監督作品は川島雄三監督との共同作品である『夜の流れ(中文タイトル:『艶妓』)』、溝口監督は『女性の勝利(中文タイトル:『女性的勝利』)』と日港合作映画である『楊貴妃(中文タイトル同じ)』のみが台湾で上映されています。
これら台湾上映作品の偏った傾向に関しては、李幼新氏の「明星的台灣現象」(『跨世紀台灣電影實錄1898-2000〔2005年、文建會・國家電影資料館〕所収)にも若干の考察があります。

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